一、強度行動障害とは何か
強度行動障害は、医学的な診断名ではありません。主に日本の福祉分野で用いられる支援上の概念であり、次のような状態を指します。知的障害や自閉スペクトラム症のある方において、自傷・他傷・著しい破壊行動・激しい情緒爆発などの行動が繰り返し出現し、本人の生活や安全、そして周囲による継続的な支援が著しく困難になる状態をいいます。
主な行動の例
自傷行為(頭を打つ、手を噛む、顔を引っかく、首を絞める など)
他傷行為(叩く、蹴る、噛む、物を投げる など
強い破壊行動(ドアや窓を壊す、家具を倒す、物を引き裂く など)
長時間の大声・パニック状態・鎮静が困難な情緒失調
強い回避・拒否・フリーズ、または制御不能な走り出し
⚠️ 重要なポイント
強度行動障害は、「性格の問題」「わがまま」「わざと困らせている行動」ではありません。環境・心理・神経特性の長期的な不均衡によって生じる結果です。
二、強度行動障害の核心的な原因(非常に重要)
①「表現できないこと」の蓄積による爆発,最も根本的で、最も多い原因です。
多くの知的障害・自閉症のある方は、言語表現が十分でない,次のようなことを正確に伝えられない
不快感,恐怖,痛み,理解できないこと,やりたくない気持ち,すでに刺激過多で限界であること
�� 行動が「唯一、確実に伝わる言語」になってしまうのです。
「言えない」状態が長く続くと、行動は代わりに語り始めます。そしてそれは、必ず強い形になります。
② 感覚過敏・感覚鈍麻(感覚統合の問題)
非常に多いにもかかわらず、見過ごされがちです。音・光・触覚・においに極端に敏感,あるいは、痛みや温度に鈍感,環境刺激をうまくフィルタリングできない
その結果、一般の人には問題のない環境でも、本人は常に強い緊張や混乱状態に置かれている
�� 例:エアコンの音,蛍光灯の光,人が多い空間,絶え間ない指示や催促,�� 行動の爆発は「突然」ではなく、耐え続けた結果、限界を超えた状態です。
③ 予測できない状況が引き起こす恐怖と失調
強度行動障害のある方の多くは、予測可能性に強く依存しています
以下のことを強く恐れます:
予定の変更;支援者の交代;突然の要求;次に何が起こるのか分からない状態;「この先どうなるのか分からない」かつ「その不安を言葉で伝えられない」
�� その結果、攻撃・破壊・逃避によって“不確実性そのものを止めよう”とするのです。
④ 過去の失敗経験による「学習された行動」
非常に厳しい現実ですが、重要な点です。もし過去に、行動が激しい時だけ理解された;暴れることで嫌なことを止められた;攻撃すると大人が引いたという経験を重ねていれば、強度行動は「有効な手段」として学習されてしまいます。これは計算や悪意ではなく、条件反射的な学習の結果です。
⑤ 不適切な支援が、かえって行動を悪化させる
よく見られる誤った対応:
複数人で囲み、次々に指示する;繰り返し叱責・説教する;力で抑え込む、強く制止する;「分かるはずだ」と要求する;感情が高ぶっている最中に説明する
�� 強度行動障害のある方にとって、対抗や圧迫は、行動のエスカレート要因になります。
三、本当に有効な対策の方向性
基本原則は一つです。行動を抑え込むのではなく、行動が起きる「必要性」を下げること。
四、具体的な支援方法(段階別)
① まず安全を確保する(説得より優先)
明確な安全ラインの設定;破壊・負傷につながる物の削減;環境の構造化(配置・動線の固定);支援者の反応を簡潔・低刺激に統一
�� 安全は、すべての支援の前提条件です。
② 日常の「見えないストレス」を下げる
予防の最重要ポイントです。
一定の生活リズム;変更は事前に知らせる;視覚的支援(写真・スケジュール);指示の数を減らす;複数課題を同時に出さない;「何もしなくてよい回復時間」を確保する
�� 行動が出る前、すでに長時間我慢していることがほとんどです。
③ 代替行動の獲得(最重要)
問題は「何をしてはいけないか」ではなく、何を使って気持ちを伝えられるかです。
例:「休みたい」「やりたくない」を示すカード;拒否を表すジェスチャーや決まった動作;その場を離れることを正当な選択肢として教える
�� 代替手段が本当に機能すれば、問題行動は自然に減少していきます。
④ 感情が安定している時のみ支援・指導を行う
絶対原則:
情緒爆発中:教育しない/正さない/説得しない
落ち着いている時:振り返り/予行練習/新しい方法を教える
�� 嵐の中で泳ぎ方を教えても、溺れるだけです。
⑤ 支援者の統一と専門性
強度行動障害のある方にとって、対応の不一致=最大の不安要因です。
組織として必要なこと:対応方針の統一;使用する言葉の統一;守るラインの統一;退くポイントの統一
これが守られなければ、行動は必ず再発します。
五、家族・運営者の方へ
強度行動障害は「改善できない状態」ではありません。
しかし、我慢だけ、厳しさだけ、気合や根性で解決する問題でもありません。
本当に有効な支援には、時間、正しい理解、環境調整、専門的なチームによる継続的な協働が必要です。
それこそが、行動を変え、生活を守る唯一の道です。